チョップアングル

オタク系フリーライター・岡島正晃が、日々の雑感などを書き散らすブログです。原稿執筆のご依頼も、随時受け付けております。Twitterアカウント「岡島正晃@Adlahir」までご連絡ください。

『ガルパン』と『艦これ』で戦車と艦船のプラモが売れる理由

 

マイブーム≠ビッグウェーブ

 

 2014年、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。

 

 ……なーんて、そんなお決まりのご挨拶も白々しいぐらい、お久しぶりのブログ更新である。人間、トシを取ると万事億劫になってイケナイね。

 

 とはいえ、ご無沙汰していた昨年後半も、俺様はちゃーんとオタクな日々を送っていた。最近のマイブームはプラモデル……って、それは生涯の趣味であるから、マイブームもヘッタクレもないんだがー。ここしばらく夢中になっていたのは、中学生の頃以来ずーっと作ってなかった、現用飛行機の模型なのである。

 

「なんでまた?」と聞かれれば、要因はいろいろある。幼き日のトラウマとか、愛してやまないゲーム『エースコンバット』シリーズの影響とか。ついでに言えば、それぞれに面白い話もあるのだけれど、それはまあ、またの機会ということで。とにかく現時点、モデラー(←模型作りを趣味とするヒト、ね)としての俺様は、現用軍用機のプラモデルがマイブームなのだ。

 

 それだけに、ね。

 

 もー悔しくて、仕方ないのよっ!

 

 昨今の『ガールズ&パンツァー』(以下『ガルパン』)による戦車模型ブームと、『艦隊これくしょん』(以下『艦これ』)による、艦船模型ブームがさ!!

 

 

ナゾの大ヒットに脳の老化を疑う

 

 この両作品について、念のためザックリ説明しておくなら、『ガルパン』は「女子高生が第二次大戦時代の戦車を駆り、“戦車道”という架空の競技で奮闘するアニメーション作品」、『艦これ』は「第二次大戦時代の日本軍艦船がカワイイ女の子に擬人化され、彼女らの装備や編成を整えて敵と戦わせるPC用ブラウザゲーム」である。

 

 とまあ、簡にして要を得る↑の説明は、まったく心得たモノよと、自画自賛なんだが!

 

 正直言うと俺様、この2作品がここまでの大ヒットを飛ばすとは、まったく予想していなかったのだ。

 

 いやだって、そうじゃなーい? 例えば「戦車」なんかは「ミリタリーの王様」みたいなポジションで、コレが好きというだけで「ミリオタ」とイコールみたいなイメージだし。いくら乗るのが女子高生でも、『ソード・アート・オンライン』あたりが大スキなオタク多数派にアピールするとは、とても思えなかったのだ。同じメカもので比べても、「背中に山ほど羽根生やした今日びのガンダム」なんかと比べたら、どう贔屓目に見ても地味なのは否めない。

 

 まして「艦船」に至っては、完全に「盆栽化」していた印象。即ち「お年寄りを中心にコアでハイエンドなファンだけが残っており、彼らについて行けるだけの情熱を持った若者が細々と加わり続けるコトで、総量としては低めの熱を保ち続けている状態」である、と。門外漢の失礼千万なモノ言いなれど、いまさら艦船が女の子に化けたところで、「背中に山ほど(以下略)」なファンが食いつくなんて、誰に予想し得よう!?

 

 しかも両ジャンルに共通の問題として、いわゆる萌えオタクの取り込みを狙った「女の子との抱き合わせ商法」は、既存の硬派なファンから大ブーイングを呼ぶ恐れがある。なにしろ両ジャンルのファンの方々は、その硬派なノリも含めてお好きなワケであるから、安易な萌えの導入など冒涜と取られても不思議はない。

 

 ゆえに俺様、どっちも世に出た当初は「約束された爆死の件」とか言って、かなーりナナメに見てたワケー。

 

 ところが前述のように、いまやどちらの作品も、飛ぶ鳥どころかデススターでも堕とす勢いだ。しかも人気は作品それ自体に留まらず、『ガルパン』をきっかけに戦車の、『艦これ』をきっかけに艦船の模型を作ってみたという層まで急増。ネットの模型画像投稿サイトにも、それまでとは比較にならない数の投稿が寄せられているのである。

 

 一体全体、コレってどういうワケ?

 

 

戦車に足らなかった「ドラマ」を与えてくれた『ガルパン』

 

 飛行機だけがハブられた悔しさもあって(「なんで戦車と艦船ばっか上手くやってやがんだよ!」ってコトね:笑)、俺様も『艦これ』のスタートダッシュからこっち、この大ヒットのナゾについてつらつら考え続けていた。その結果、あるひとつの回答に至ったように思う。

 

 まず大前提として、両作品に「萌えキャラが出てたから」という分析は、あまりに安易であると言わねばなるまい。作品の人気が女の子キャラ「だけに」依存しているなら、アキバの売れ筋はキャラクターのフィギュアでなければ説明がつかないからだ。そうでないなら、むしろ女の子キャラクターという入り口から作品のファンになった人たちが、戦車なり艦船なりの魅力に目覚めていると見るべきだろう。

 

 この点で解かりやすいのは、『ガルパン』のほうである。なにせ劇中で女子高生が乗り回すのは、二次大戦の戦車そのまんま。フルCGによってプラモデル顔負けのディテール密度を与えられたそれらの戦車が、履帯で泥を蹴立て、戦車砲をドカンと撃てば、カッコイイに決まってんだから! まして「本物の二次大戦戦車が戦ってる映像」は極めて貴重だし、おまけにほとんどモノクロ。『ガルパン』が描き出した総天然色の戦車戦映像は、ミリタリーファンにとってすら、驚きと感動に満ちている。いわんや戦車のセの字も知らなかった人たちにとって、いかに新鮮なモノだったかは想像に難くない。

 

 さらに『ガルパン』は、アニメならではの演出によって、各戦車のキャラクターをきちんと立てていた。火力面ではお話にならない八九式中戦車も、柄の小ささと快足を活かした囮作戦で大活躍。Ⅲ号突撃砲は持ち前の火力と背の低さでスナイパーのように立ち回り、ドイツ軍の「ワークホース」と謳われた我らがⅣ号戦車は、涙ぐましい改修と搭乗員のチームワークで難局を乗り越えていく。いずれのケースでも、戦車の見た目と活躍ぶりがイコールで結ばれており、言い換えるなら「機能を体現している」ワケである。コレぞまさに、メカの魅力の真骨頂! 数だけはやたらと出てくるくせに同じような戦い方しかせず、デザインと強さでしか差別化されていない凡百なアニメロボより、印象に残って当然だ。

 

 ただ、ここで勘違いして欲しくないのは、『ガルパン』はそうした戦車のキャラクター性を誇張したに過ぎず、「付与した」わけでは決してないことである。「火力はぜんぜんないけど足は速い」とか、「超強ぇけどすぐ故障する」といったキャラクター性は、史実の戦車たちがもともと備えていたモノで、ザインにもそれは顕れている。

 しかしながら、じゃあ個々の戦車たちが、そうした特性を活かして如何に戦い、それがどう見えたのかという点に関して、史実はあまり多くを語ってくれない。なにしろⅣ号戦車など、総生産数は8500両にも上るのだ! 「Ⅳ号戦車という戦車全体」の特徴=キャラクター性や、戦史的な影響功罪は語れても、その1両1両の「ドラマ」に関しては、よほど有名なケースでなければ藪の中なのである。

 

 そう! 『ガルパン』によって付与されたのは、むしろこの「ドラマ」のほうなのだ。

 

 いかに戦車の機能や個性が際立っていても、それらのデータだけで萌えられるのは、たぶんもともと戦車がスキな人だけだ。それ以外の多くの人たちは、実際に戦車が戦うドラマを見て、はじめて「カッコイイ!」と思うんじゃなかろうか? ズゴックだって、ライバルであるシャアの復活劇と、ジムのどてっ腹をブチ抜く鮮烈なシーンがあったからこそ、人気を博していたハズ。ぶっちゃけアレのデザインとMGプラモデルあたりの解説文だけでファンになれる人って、そんなに多くあるまい。それと同じコトである。

 

 つまり『ガルパン』は、キャッチーな女の子キャラを掴みに、「戦車道」という殺伐とし過ぎない王道スポーツ「ドラマ」のアツい展開のなかで、戦車のキャラクター性を真正面から描き切ったというワケ。なればこそ、それまで戦車に見向きもしなかった人たちも、「バレー部員が乗ってた“はっきゅん”(←八九式中戦車のあだ名:^^)が欲しい!」と、プラモ屋に走ったのである。

 

かく言う俺様自身、最初は「ガルパン効果でドラゴン社のⅣ号G初期が再販されるのかぁ。じゃそっち作るかなぁ」とか言ってたくせに、女の子ちゃんたちのスポ根ドラマにほだされて、いまじゃすっかり「作るなら絶対プラウダ戦バージョン!」になってるぐらい。アナタにも思い当たるフシ、あるんじゃないかしら?

 

 

艦船の魅力は戦車と真逆?

 

 一方、『艦これ』のヒットで艦船模型が売れているという状況は、ずっと解かりにくい。前述のように、なにしろこちらは艦そのものが女の子に擬人化されており、ゲーム中にモデルとなった艦の姿は一切出て来ないのだ。そんなゲームのファンが、擬人化された「艦娘」のフィギュアではなく、モデルとなった艦のキットを買うというのは、なんとも不可解だろう。

 

 だがここで、前述した戦車の特性を踏まえつつ、艦船ついて考えてみると、意外なほどストンと腑に落ちる。実は興味の対象としての戦車と艦船を比べた場合、両者はまったく逆の立場にいるのである。

 

 まず艦船は、戦車に比べるとキャラクター性が非常に見えにくい。なんせ空母を別にすれば、船体の形はどれも「棒になんか乗ってる」だけ。それを言ったら戦車もご同様だが、こちらはサイズが馬鹿デカイもんだから、ディテールは山ほどあるクセに、全身が映る引きの画だと、どれも印象がボヤけてしまう。もちろん、それら個々の機能も見た目に解かりにくい。乗員の数も膨大なため、感情移入する視点の置きどころにも困るだろう。ダメ押しとばかりに、軍用艦船には「同型艦」という、素人目には見た目の違いがまったくわからないヤツらがゴロゴロいたりする。

 そりゃあ確かに、駆逐艦と戦艦ではサイズも桁違いだから、並んでいればおのずと印象は変わるのだが、それだって1/700統一スケールで模型を並べてみるとかしないと、なかなか伝わらないハズだ。

 

 だが逆に、艦船は戦車と違って、どれひとつをとってもドラマの宝庫である。なにしろ艦船は国家の威信をかけて建造される兵器であり、当然その絶対数も圧倒的に少ない。それだけに一隻一隻が固有の名を持ち、ほとんどは建造から最後の瞬間までの航跡を記録に留めているのである。あるいは激闘の、あるいは悲劇の運命をその身に背負った「ドラマ性」こそ、戦車にはない艦船の魅力なのだ。

 

 もうお解かりだろう。『艦これ』のアプローチは、こうした艦船の弱点を補い、その魅力の真髄へと誘導する仕掛けなのである。

 

 まず、素人目には見た目の違いも判らない艦船を女の子に擬人化し、「キャラクター」を与える。ビジュアルと声と人格を与えられた「艦娘」たちは、モデルとなった艦そのものよりもずっと親しみやすく、差別化も容易。ユーザーの記憶にもバッチリ刻み付けられる。

 

 ところが実はこの段階で、「艦娘」のキャラクターにはモデルとなった艦のドラマが反映されているのだ。英国のヴィッカーズが設計、建造したモデル艦にちなんで、艦娘の「金剛さん」もニセ外人みたいな喋り方をする、といった具合に。同型「艦娘」が同じイラストレーターの手で描かれているのも、こうした「仕込み」のひとつだろう。このあたりで、熱心なファンなら「なんでだろ?」と気になってしまうハズ。

 

 さらに「艦娘」たちは、折々で意味深な台詞をポロっと吐いたりもする。例えば「長門さん」が轟沈するときの

 

「戦いの中で沈むのだ……あの光ではなく……本望だな……」

 

 は、なんと第二次大戦を生き抜いたモデル艦の長戸が、終戦後に原爆実験によって沈んだという史実を反映させたもの。ハッキリ言って艦船マニア以外には何のコトやらサッパリなのだが、それだけに「彼女の」キャラクターに親しんでいたプレイヤーたちは、その意味するところを調べずにいられまい! 結果、wikiのひとつも読んでみたプレイヤーの何割かは、長門の辿ったドラマに胸を打たれるという寸法である。

 

 いやはやまったく。なんと上手い、そしてイカす仕掛けだろうか!

 

 

偶然でも安易でもない、大ヒットの必然

 

 だからどちらの作品も、単に時流に乗っただとか、萌えオタに媚びただけだとか、まして単なる偶然で大ヒットしたワケでは、断じてない! むしろ、戦車なり艦船なりを本当に「わかってらっしゃる」作り手が、その魅力を伝え、足らないナニかを補う手段として、女の子キャラを上手に組み合わせたからこそ、いまの活況があるのだ。

 

 そして恐らく、現在『ガルパン』や『艦これ』のファンで、戦車なり艦船なりの模型にまで手を出している人たちは、以降の人生でもそれぞれのファンであり続けるだろう。もともと「もう出すモンもない」状態の戦車模型はともかく、艦船模型では、コレがキッカケで古いキットのリニューアルなんかも、ワンチャンありそうな勢いだし。

 

「1/72でF-5Eを作りたいナー」とか思い立ったモノの、古今東西に渡って決定版キットがひとつもないと知って、ガンプラとのあまりの差に顎をハズすほど驚いた、俺様のようなニワカ飛行機モデラーからすると、まっこと羨ましい。いやむしろ妬ましい!

 

 妬ましいんだけど。模型画像投稿サイトに『ガルパン』戦車や『艦これ』艦船が並ぶたび、思わず喝采を叫んじゃう俺様なのである。